感染研のホームページが語らないことに、過去の人為的ミスの存在があります。これは情報開示請求によってはじめて明らかになったことですが、一九九五年から一九九九年までに感染研では六件の実験室内感染事故が起きています。
戸山庁舎に限って言うと一九九九年に原因不明の死亡患者の臨床材料からウイルスを分離する最中、注射針による針刺し事故が発生しました。また同一九九九年にインフルエンザウイルスに対するモノクローナル抗体を作成するため、マウスの尾の静脈に注射しようとした際、マウスが急に動いたため、ウイルス液が針から噴出し、実験者の右の裸眼に入る事故が発生しました。また二〇〇〇年にはマウスにペスト菌を投与した注射針を誤って指に刺す事故がありました。これらの事故はいずれも初歩的なミスによる事故であり、たとえ実験室内感染事故であったとしても看過できることではありません。初歩的なミスが大事故に繋がることは過去の多くの事例が示しています。
関東において大震災の危険が確実に高まっているなか、大地震が起きて建物が破損し、フィルターが破損したり、外れたりして病原微生物や有毒物質が外に漏出したらどうなるでしょう。配水管が破損して実験後の排水が漏水したらどうなるでしょう。破壊された建物から感染実験動物や感染昆虫が逃走したらどうなるでしょう。混乱に乗じて病原微生物や有害物質が盗まれたらどうなるでしょう。阪神淡路大震災以前に立てられた現在の研究所の建物はこの地震を契機に改定された耐震基準を満たしていない可能性があります。最近の新潟県中越沖事件の際の柏崎原発の例を思い出してみましょう。「想定以上のゆれだった」と原発当局者は語っていましたが、感染研においても同じ事態が起ることはおおいに予想されます。病原体は放射能と違い、ガイガーカウンターなどの計器ですぐに感知することができず、目にも見えません。知らないうちに感染が広がり、拡散していく可能性があります。その取り返しのつかない被害は原発の被害をはるかに上回るものとなることが想像できます。
またもし感染研で火災が起きても爆発の危険があるので水をかけることはできず、燃えるにまかせるしかない、と言われています。柏崎原発の火災のように消火活動はできないのです。火災と共に病原体も漏出にまかされるのでしょうか。新潟県中越沖地震は休日に起きましたが、夜間・休日に同じような地震が起きたときを想定した職員の実地訓練は行われているのでしょうか? そのためのマニュアルは徹底しているのでしょうか。実際に過去に起きた実験室内感染事故の事例はそれを疑わせます。火災が発生した場合を想定した緊急対応マニュアルを是非示してもらいたいものです。
感染研に隣接した戸山公園は大規模災害の際の広域避難場所として新宿区が指定している場所です。しかし病原体が直接流出する可能性のある場所です。過去の事例を見てみますと旧ソ連邦時代のモスクワやスヴェルドロフスク市では細菌漏出事故によって死者まで出しています。
周辺住宅地・文教地区と密接に関わっている感染研の安全を守ることは、区の安全を、東京都の安全を、さらには日本の安全を守ることでもあります。国立感染症研究所が以前の国立予防衛生研究所の名称を国立感染症研究所の改めたのは「予防」が不要と考えたからではないでしょうが、実際に「予防原則」を無視した立地条件で、業務を続けていることは事実です。