2013年7月5日 高額備品不明問題に関する交渉

国立感染症研究所の安全性を考える会は、2013年5月9日、同研究所所長宛に「高額備品不明問題に関する要請書」を提出し、5月末日までに、文書で回答するよう求めていましたが、文書回答はできないとのことから、同7月5日、交渉を行うこととなりました。以下は、その交渉の概要です。

日時:2013年7月5日(金)13時~14時半

場所:感染研1F会議室

参加者:感染研=加地尚春総務課長ほか6人

感染研の安全性を考える会=鈴木武仁会長ほか4人

 

1、本件「高額備品不明問題」に関する要請事項

(質問①)貴職は、今回のずさんな管理についてお詫びをし、今後の再発防止に努めると確約しています。内部調査をしたところ確認できた3000件の廃棄処分の中で1000点余りが、手続きが取られずに廃棄処分がなされ、いまだに所在不明とのことです。この点に関する調査の経緯と結果を報告していただきたい。

(回答)詳細については、別紙の報告書(24年9月28日、本省の会計課へ提出)を参照してください。経緯について、23年1月25日~26日にかけて本省の会計課より「すべての重要物件について確認を行うように…」と指示されました。その後、調査を行い、その調査の結果の概要について、所在が確認されたのが3,983物件(取得価格=約90億円)、所在不明物件が952物件(取得価格=19.9億円)。重要物件を廃棄するには本省の承認が必要であるにも拘わらず、その確認をせずに、廃棄をしてしまったことなどが確認されています。私的流用の事実は確認されませんでしたが、物品を廃棄する際の事務手続きが適正に行われていなかったのは事実です。今後は再発防止のため、たとえば、人事の異動や採用時などのあらゆる機会を捉えて物品購入から廃棄までの手続きについて周知徹底を図っています。また、物品管理法に基づく定期検査の他に、当所独自に定期的に確認を行うなど再発防止を徹底することとしています。

(質問②)特に、今回所在不明となった機器には一台160万円位する「安全キャビネット」もありました。その滅菌処理がなされたかどうかの記録がされていたのか、どうか。されていないとすると、どこに問題があったのか。

(回答)安全キャビネットの廃棄の際は、感染研の病原体等安全管理区域運営規則「BSL2及びBSL3実験室」運営規則に基づいて、消毒・滅菌して廃棄することとなっており、廃棄の届出が事務の方になされています。

(質問)報告がされたかどうか、という質問内容ですから、明確に答えてください。

(回答)どの備品をどの時期に廃棄したか特定できないため、適切な回答ができません。

(質問)廃棄されている器材のリストがありますね。

(回答)なし。

(質問③)国家の医学・医療の予防的見地から安全管理規定をもっと厳しくすべきであると考えるが、どう対応するお考えか、明らかにしてほしい。

(回答)感染研で取り扱う病原体等の安全管理については、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律、所謂感染症法や家畜伝染病予防法において、病原体の管理について規定されています。感染研においては、それらの法律に基づいて感染研の規程を策定しており、それらの規程に基づいて安全な病原体等の取り扱いを実施しているところです。

(質問④)バイオハザード予防市民センターが、安全規定に関する規則案を作成されているので、参考にして、法制化を諮っていくべきと考えるが、いかがお考えか。(別添「遺伝子組換え実験施設に係る環境安全を確保する条例案」「病原体等実験施設規制法試案」参照 出典:「国立感染研は安全か」P278~291)

(回答)繰り返しになりますが、病原体等の取り扱いについては、先ほど申しましたように、感染症法等の法律と感染研の規程に基づいて安全な病原体等の取り扱いをしています。

また、法に定められていない対象外病原体の取り扱いにつきましても感染研の規程に基づいて安全な取り扱いをしています。さらに、組換えDNA実験に関しては、カルタヘナ法の二種使用等が感染研での研究などに該当しますが、組換えDNA実験安全委員会で策定した規則に基づいて実施しています。

お尋ねの法制化については、感染研は、感染症法等の法律を直接所管しているわけではありませんので、お答えできませんのが、厚生労働本省及び農林水産本省が法制化という話になるのではないかと思います。

(質問⑤)安全管理に関する第三者機関のチェック体制を本格的に実施に移すべきと考えますが、どのように検討されていますでしょうか。

(回答)感染研ではすでに所外の先生方も参画して頂いて、病原体等取扱安全監査委員会を設けて運営しています。

(質問⑥)1999年、7200万円で購入した遺伝子発現解析装置(遺伝子組換え機器)について  イ.この機器を購入する際の稟議書のコピーを提出していただきたい。ロ.この機器を実際に購入したことが分かる資料を提出していただきたい。ハ.この機器を実際に使用した日時、実験経緯と報告内容が分かる資料を提出していただきたい。

(回答)この機器は感染研が購入したものではなく、感染研と他の研究機関で共同研究契約を結びまして、その機関が購入し、感染研の研究者が保管・管理をしていました。その後、その機関から機器の寄付を受けたものです。そのため、感染研には購入の際の稟議書や購入の記録などは残っていません。実験経過などについての資料は廃棄しており残っていません。

 

2、2011年1月、厚労省本省の指摘事項に関する要請事項

2010年6月に東京地検特捜部で元会計予算係長が逮捕され、有罪になったことがありました。理由は、廃品処理会社から200万円の賄賂を受け取ったからです。そして2011年1月、会計検査は「50万円以上の備品1153点の所在が不明」であることを指摘しました。「備品台帳」に記載もせずに高額な機器が大量に処分されていたのです。無償で処分したのか、有償でしたのか、5年間の耐用年数、減価償却は終わっているとしても台帳記載もせずに処分したのです。

(質問①)これらの物品はどの業者が処分したのか、処分費用はどのくらいかかったのか。

(回答)業者に廃棄の委託をする場合、重量で委託をしており、個々の備品での委託ではありません。加えて、どの時期にどの備品を廃棄したかを特定できない状況であるので、適正な回答ができない状況であることをご理解いただきたいと思います。

(質問②)その備品はまだ使用できる場合はどこに委譲したのか、それらが関連研究所に寄贈されたのではないか、処分業者から賄賂(バックマージン)をもらっていたのかどうか。

(回答)故障等により使用できなくなった備品を廃棄しており、無償で移譲するような事実はありません。現役及び退職した元職員も含めてアンケートを実施しましたが、私的流用とか不正は確認されておりません。

(質問③)この事件が起きた原因と再発防止策をどのように実施しているのかを、明らかにしていただきたい。

(回答)先ほどの1-①の回答とおりですが、一人ひとりの認識が不足しており、再発防止のためには、制度の周知徹底、定期的な物品の把握などをおこない再発防止に努めてまいりたいと思っています。

(質問)どの業者に回したのですか。

(回答)おたずねの備品をどの時期に廃棄したか特定できないことから、適切な回答ができません。

(質問)安全キャビネットの廃棄処理の記録があるのかないのか。その記録簿をみればどの業者に渡っているかが分かると思います。その業者がきちんと処理しているかどうかそこまで追及していかないと、安全は確認できないからです。

(回答)滅菌処理はできているが、その後の廃棄の段階で適正な事務手続きができていませんでした。(適正な記録が残っていない)。

(質問)滅菌処理をして、その備品の記録が残っているのであれば、それをどこの業者にいくらで渡したかは当然分かるんじゃないんですか。

(回答)今の質問に対し、責任をもってお答えすることが当然だと思うんですが、それができないような状態にあります。

(質問)本省からは、そのような質問はなかったのですか?本省は、もう、これで終わりにするということですか。

(回答)処分業者を特定するように、とかの話はなかったです。

(質問)物品がどこにいったのかもわからない、いくらで処分したかもわからない、そういうことを本省は容認しているということですか?

(回答)報告書に書いているとおりです。

(質問)今までの処理は、台帳に記録することが中心であって、その備品がどこの業者にどのような条件で廃棄されたか、その業者が適切な処理をしたのかどうかの確認は全然できていない、このように理解してよろしいですか。

(回答)そのとおりです。

(質問)器具を扱っている人(又は扱っていた人)に聞けば、わかるんじゃないんですか?

(回答)聴き取り調査を行い、適宜聞いていますが、いつ廃棄したかどうかまでは確認できていません。

(質問)2009年の高裁判決で備品の管理などを十分徹底することが判決文の中で感染研に強く求めていますが、この判決を踏まえて、それ以降、改善がされてこなったのですね。それをお認めになりますか。

(回答)所長もこの件に関してはお詫びをしております。過去から不適切な対応がなされてきたということですので、結果的に高裁判決以後もそういう対応が続いていたということになります。

(質問)高裁判決後も改善されず、本省の指摘を受けてやっと、いま改善策がとられるようになった、その間に、特捜も入っているので、これは重大な不祥事が起きているのは、内部にそういう本質的な体質があったと思いますが、いかがですか。

(回答)報告書にあるとおり、過去から不適切な対応であったことを認めていますので

そいうことはあったことは事実です。

(質問)2009年6月に特捜がきて会計係長が逮捕されている。それは、廃品処理業者から200万円の賄賂を受け取ったという事実があり、それ以降、何ら改善がされず、こうした悪質な体質が温存されている。業者が信頼に足るものではなく、その業者が安全に廃棄物を処理していることが確認されなければ、地域住民としては安心できません。本来、皆さん方自身の手でそれを追及しないといけないのではないですか。業者が、この間変更になったことがあるんですか。

(回答)業者は入札資格のある業者が入札で決まります。

(質問)どういうやり方で業者は、処理しているのですか。

(回答)通常であれば、廃棄物処理法という法律にもとづいて処理がされているものと思います。違法行為があれば、入札に参加できなくなります。

(質問)廃棄物を処理する処理業者が、不適切な処理をしたり、備品からウイルスが漏出したりする事故が起きた場合、どこまで責任をとるんですか。

(回答)ウイルス漏出した場合は、感染研の責任ですから、私たちが責任を負います。廃棄物の処理は、処理業者が負っています。

 

3、ワクチン審議委員に対する寄付金の件について

2013年4月22日の「東京新聞」によると、予防ワクチンの効果について議論する厚生労働省の「ワクチン評価に関する小委員会」(委員長・岡部信彦国立感染症研究所感染症情報センター長=当時)の複数の委員が、ワクチンを製造している製薬会社から寄付金などを受け取っていたと報じています。

(質問①)この件の事実の確認をされていますか。

(回答)事実の確認を行っています。

(質問②)もし、事実であれば、行政と製薬会社の癒着・談合等に通じるものであり、このような寄付金は返還すべきと考えますが、いかがお考えでしょうか。

(回答)勤務時間外に行った講演料等としてもらったものであり、寄付金として受け取ったものではないということを確認しています。これは、国家公務員倫理規程でも禁止行為とされておりません。倫理規程では、「利害関係者」と「利害関係者ではない」の二通りに分かれております。利害関係者であっても「もらってはいけない」とはなっておりません。利害関係者から報酬を受けて講演等を行う場合には、申請書を出し、事前承認をもらうことが前提となっています。

(質問)これは、情報公開でとれますね。

(回答)2万円以上のものは、本省で公開しています。

(質問)三つのワクチンのうち、子宮頸がんは大きな問題となっています。ワクチンに関するファクトシートは、感染研が作ったものですよね。

(回答)ファクトシートは、感染研が関わっていますが、感染研が作ったものではありません。

(質問)感染研の職員が論文や講演での金品授受の場合は、報告義務が発生するんですか。

(回答)5000円以上であれば、すべて報告するようになっています。

 

4、交渉全体を通しての問題

(質問)備品管理というのは、感染症の安全管理においてイロハのイであり、完全に実施されて当然でありながら、杜撰極まりないお粗末な管理がなされていたことが判明しました。これよりももっと高度なウイルス等の漏出等の危険性について、感染研は「WHOの指針を踏まえ、十分安全性の確保は十分に行っている」と常に力説するが、「こんなことで大丈夫なのか?」との疑念をもたざるを得ません。滅菌処理した「安全キャビネット」の廃棄物記録の一覧が作成されていなかったら、もし、ウイルスが漏出した場合、業者名や行き先が分からなければ、その責任を追及するのも追及ができないことになるじゃありませんか。記録簿を作っていないということは、職務怠慢ではないですか。

(回答)最近のものについては、廃棄の手続きを適正に行い、今後そのような事態が起きた場合は、即対応できる状態になっています。

(質問)過去において、廃棄記録も業者名簿もないという状況があり、その体質が今日まで残存しているのではないかという疑問があるのですが、その体質は改善されましたか。

(回答)この問題が起きてから、廃棄の手続きの適正化など、再発防止に取り組んでおります。